ココロエノグ

夜の闇が暖かく僕の体を抱きしめる
美しき森の中
もう一度空を仰ぐ
足元に転がっている誰かが落とした仮の貌
拾い土を払い除け
そっと顔に押し当てる
今流れ落ちた涙の跡を隠す為
もう朽ち果てたあの日の躯を眺めながら
また少しだけ夢が近く見えた

けれど

あの日塗られた新しい色
薄汚れた黒い心絵具
簡単には上塗り出来ずに
いつまでも抱えたまま
誰か綺麗な色をくれ

石段が見えてくる
何処までも続いている
この先に在る物を見たくなくて
足は止まる
石段の中腹に浮かんだ薄い幻影
振袖の少女が僕を誘っている
まだ僕に愛想を尽かしていなかったのか

まだ続いているあの日の階段
僕はまだ昇っている
引き返せない
辿り着くまでは…

いつか

あの日塗られた黒絵具
それさえ今の僕であって
全てを受け入れて歩こう
いつまでも抱えたまま
だけど色はまだ塗れる

キャンバスに余白は残っている