ムゴン ノ センジョウ ニテ

一つの調和の名残
噎せ返る無の薫り
画一的に変貌した斜面
消えた仲間を無言のままに見下ろす
夥しい森の群れ
全てをやり遂げる使命を帯びた
汚れきった機械も今日は休み
静寂の山間で挑むべき敵
既に死に体となった
余りに強大で余りに無抵抗な敵を
ただ
じっと
今にも襲い掛からんとする気迫を持ったまま
しかし
しばしば
長き戦いの果てに戦士たちが友情を得るように
ある種の感慨を持った風貌で
佇んでいる

観察者たる私は
見詰めあい
牽制しあい
そして慈しみあうような
感情を持たぬはずの両者に
そんな物語を幻視し
幾百の戦場を渡り歩いた老兵の
昔話に付き合うような気分で
彼らを眺めている

ただ無上の遠世感
ただ説明不可の幸福感
理由など無い
この小さな土色と緑色の世界は
果てしなく美しいと言うだけの事
そう他者に理解など出来なくともいい
例え私だけが知覚しうる美だとしても
それは寧ろ無上の喜びだろう